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Projects


概要



重力レンズ効果による暗黒物質分布の直接測定
すばる望遠鏡を使い、宇宙の暗黒物質(ダークマター)の分布を測定する研究を行っています。 暗黒物質は宇宙のエネルギーの約27%を占め、目に見えることができない未知の物質です。 目に見ることができない物質は、電磁相互作用をしていないので、X線や光などの観測を通して直接見ることはできません。 しかし、アインシュタインの一般相対論が予言する重力レンズ効果を用いて暗黒物質の質量分布を直接測定することができます。 暗黒物質の分布を調べることによって、宇宙の構造がどのように進化しているのかを知ることができます。 特に弱い重力レンズ効果と呼ばれる現象を使って、宇宙最大の天体である銀河団の質量分布の測定の研究を行っています。 重力レンズ効果を観測する世界最高性能の装置である、 日本のすばる望遠鏡の新しい主焦点カメラ(ハイパーシュプリームカム/HSC)を使って研究をしています。

銀河団
銀河団は太陽質量が約100兆から約1000兆倍に達する宇宙で最大の天体です。その巨大な質量のうち暗黒物質が約80%、高温ガスが 約15%、銀河が約5%の割合で占めています。冷たい暗黒物質による階層的構造形成モデルに基づけば、小さな天体が最初にできその後大きな天体が形成されます。銀河団は宇宙で最大の天体であることから、構造形成の線形性を比較的保つため、宇宙の構造進化を知る上での巨大な実験場になっています。暗黒物質分布は重力レンズ効果、高温ガスはX線やスニアエフ・ゼルドビッチ(SZ)効果を通して観測され、銀河は光学望遠鏡などで観測されます。

重力レンズ効果、X線、光学、電波などのデータを組み合わせた多波長研究
X線や光などの多波長のデータを組み合わせて、目に見ることができる通常の物質(バリオン)である 銀河や高温ガスの物理量と暗黒物質の質量の相関などを調べ、 暗黒物質優勢下でどのようにバリオンが進化しているのかを研究しています。

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すばる望遠鏡: 上図は、ハワイ島マウナケア山に山頂4200mにあるすばる望遠鏡(中央左)。
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重力レンズ研究: 上図は、すばる望遠鏡旧主焦点カメラ(シュプリームカム)で捕らえた銀河団A383の光学撮像イメージ。重ねている紫色は弱い重力レンズ解析で復元された暗黒物質分布を表します (Okabe et al. 2010;Okabe et al. 2013;Okabe & Smith2015)。
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多波長研究: 上図は、銀河団A2034の光学撮像イメージ。重ねている紫色は復元された暗黒物質分布。赤色はX線を発する銀河団ガスの分布。 暗黒物質分布は銀河団ガスの分布と大きく異なることが分かります (Okabe & Umetsu 2008)。
Very Nearby Cluters




赤方偏移z <0.06程度(約8億年前)にある重量級銀河団22個の系統的な銀河団質量分布の研究を行っています。 超近傍宇宙の体積は小さいため、重たい銀河団の数はとても少なく、本ターゲットがすばる望遠鏡を使って見える銀河団のほぼ全てになります。超近傍にある銀河団の見かけの大きさは近傍宇宙(0.15< z <0.4)に比べ十分に大きいため、銀河団の内部構造を詳細に測定することができます。銀河団の内部構造は、のっぺりと広がった暗黒物質分布の中に、密度が高いつぶつぶのサブハローと呼ばれる小さい構造があります。弱い重力レンズ効果によって、このサブハローを分解することができ、その質量を測定することができます。数年前までに精力的に行われてきた銀河団の弱い重力レンズの研究は近傍宇宙(0.15< z <0.4)に限られていたため、小さなサブハローの情報を得ることができませんでした。超近傍宇宙の銀河団では総質量の約1%以上のサブハローを探知することが期待され、サブハローの特徴を統計的に調べることができます。これによって宇宙の構造形成進化に迫ることができます。今まで捉えることができなかった新しい物理情報を得ることができるユニークなプロジェクトです。
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サブハローの質量関数: 上図は、かみのけ座銀河団内にあるサブハローの質量関数(先行研究;Okabe et al. 2013)。青線と赤線はベストフィット関数。緑の線は偶然現れるフェイクサブハローの質量関数。観測された質量関数と偶然現れるフェイクの質量関数は大きくことなる。質量関数の傾きは、ΛCDMモデルの予言と一致。

MaNGA+HSC



スローンデジタルスカイサーベイ(SDSS)のMaNGA(マンガ)サーベイは、近傍宇宙の銀河の2次元分光を行い、銀河の元素分布や力学状態の情報を明らかにします。銀河団の中心には一番明るい銀河(BCG)があります。MaNGAによるBCGの速度分散の情報とHSCによる銀河団のレンズ信号を同時に解析することによって、銀河団中心部の星の情報と暗黒物質の情報を分離することができ、巨大な重力ポテンシャルの環境下でどのように星が形成されたのかに迫ることができます。
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MaNGA 観測された銀河(上)と分光観測によって得られた星の速度分散の2次元マップ。

HSC Survey



現在、ハイパーシュプリームカム(HSC)を用いて日本ープリンストン大学(米)ー台湾の国際共同プロジェクトによって 現在から約80億年前の宇宙の暗黒物質の地図を作る宇宙探査が5年に渡って進行中です。この宇宙探査は仮にハッブル宇宙望遠鏡で同じことをしようとすると100年以上もかかる大規模な計画です。これにより、宇宙の構造進化の解明が劇的に進むことが期待されています。下図はHSCのサーベイ領域を表します。
HSCSSP
LoCuSS



赤方偏移0.15< z <0.3(約20-35億年前)にある80個の銀河団の系統的な多波長研究の国際共同プロジェクト。Local Cluster Substructure Survey(LoCuSS)と言うプロジェクトです。弱い重力レンズ効果、X線、SZ効果、光学、紫外線、赤外線などの多波長を組み合わせて、暗黒物質とバリオンの物理状態の統一的理解に迫ります。弱い重力レンズ解析はすばる望遠鏡の旧主焦点カメラ(シュプリームカム)によって行われました。

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A209の暗黒物質分布(すばる望遠鏡)
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A209の古い星の分布(UKIRT)
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A209の星形成銀河の分布(Herschel)
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A209の高温ガス分布(ChandraX線衛星)

Astro-H,XMM-Netwon,Chandra,Suzaku



X線観測は、銀河団の重力ポテンシャルに閉じ込められている高温ガス(プラズマ)を観測する手段になります。日米欧の各X線衛星の特徴を最大限活かした研究を行っています。またX線の物理情報と銀河や暗黒物質の情報を組み合せた多波長研究を行っています。
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すざく衛星による銀河団ガスのエントロピープロファイルの普遍性(Okabe et al. 2014)。横軸は銀河団の弱い重力レンズから測定された銀河団の大きさで規格化した半径。縦軸は、弱い重力レンズ質量で規格化した銀河団ガスのエントロピー。サンプルは様々な個性があるが、銀河団の外縁部ガスのエントロピーが普遍的なプロファイルを持っていることが分かる。